(the low of causality)のゆあん様からいただきました。
ヒーローVSヒーロー
「どうして、こんなことになるんだよ…」
涙目で愚痴る。
ジュドー・アーシタは今までになくしょぼくれていた。
「オレって主役でしょ?子供でしょ?」
『HERO'S TV』のヒーローコスプレをするのはいい。
ただ、よりによってジュドーに割り当てられたのが――
「なしてオレがロックバイソン!?」
先日アムロやカミーユと盛り上がった際には、「ジュドー=ワイルドタイガー」で落ち着いた。
だからこそ、ジュドーはコスプレを言い出したのだし、ワイルドタイガーになるつもりでいた。
にもかかわらず、与えられたコスチュームは、なぜだかロックバイソンで。
「オレ、14歳だよ?主役だよ?ロックバイソンはあり得ないよ!」
ジュドーからしたら、ロックバイソンはフケ専のおっさんキャラ。しかもゴツいマッチョだ。自分に重なる部分は1ミリもないと思う。
コスチュームを着ても、その思いは強くなるばかりだ。
「せめてオリガミサイクロンにして欲しいよ…」
密かに好きなヒーローの名を出して嘆く、そのとき。
「ニンニン」
当のオリガミサイクロンがやって来る。
もちろん、ジュドー同様コスプレの偽物だ。忍者歩きも単なるがに股で、様になっていない。
しかも「お前がロックバイソンやれよ!」と言いたくなるぐらい、ゴツくてでかい。
「……あんた、誰?」
「ははは、俺だ!」
マスクの下から現れた顔を見て、ジュドーは悲鳴を上げずにいられなかった。
どうして・なんで?という疑問が脳内を飛び回る。
「ヘンケン艦長が…オリガミサイクロン!?」
「ははは」
「笑いごとじゃないっしょ!間違ってるよ!おかしいよ!」
「ジュドー・アーシタ。よく考えろ」
「何を!」
「オリガミサイクロンの特技だ」
「特技?ええと……擬態?」
「正解!ニンニン」
「はあ?全然わかんないよ!」
「俺は変装の達人だ」
「ええっ!?」
「ハンバーガーショップで店員に化けたことがある。誰にも見破られなかったぞ」
「そりゃあ、制服着てれば…」
「わかったか、ジュドー!だから俺がオリガミサイクロンなのだ!はははは」
豪快に笑いながら、ヘンケンは蟹歩き…ならぬ忍者歩きで去っていく。「エマ中尉の背後に見切れるぞ!」とはしゃがれたら、突っ込む気にもなれなかった。
「見切れるほど嫌われるな」
そう身も蓋もなくヘンケンを評するのは、アムロ・レイ。
ジュドーが望み期待したワイルドタイガーの衣装を着ている。
「アムロさん!どうして!?」
「ああ、ガンダムの主役といったら、やっぱり俺だからな」
「違うの、オレが聞きたいのは…」
「あと、バーナビーがさ」
立てた親指で指す先には、晴れ晴れと素顔を晒すヤツが。
「クワトロさん…」
「おお、ジュドー・アーシタ。どうだ、私のバーナビー・ブルックス・ジュニアは。赤いヒーローだからと、着せられてしまったのだが」
困っているのは言葉だけ。表情は最高にゴキゲンだ。ヘンケン以上にはしゃいでいるだろう。
「私がバーナビーということで、アムロが対のワイルドタイガーになったのだが、聞けば、ジュドー、君がワイルドタイガーに内定していたというではないか。すまないな」
「いーえ、ぜんっぜん」
こんなアホとコンビを組まなくて済むなら、ワイルドタイガーじゃなくて良かったと心から思う。
「オレにはオジサンのワイルドタイガーは無理だもん」
隣でアムロの喉が「ぐ」と鳴ったが、気にしない。
「でもさ、どうしてオレがロックバイソンなわけ?他にもキャラいるっしょ?」
「ああ、君がロックバイソンになるにはそれなりの意味がある。それに…」
「ありがとう!そして、ありがとう!」
思い切りなり切ってポーズを決める。
言わずもがな、スカイハイだ。
「どうだい、シャア?僕のスカイハイは決まっているかい?」
きゃっきゃとマスクを外すのは、ガルマ・ザビ。
キラキラした瞳でバーナビーに扮したシャアを見上げた。
「君の意見が聞きたい」
「見事だ。さすがガルマだ」
「そうか。コスプレは不安だったんだけど、よかった。スカイハイになれて嬉しいよ」
「気に入ったか?」
「ああ、彼は良い。とても純粋だ」
「そうだな、ド天然だな(ボソ)」
「キング・オブ・ヒーローとしてずっとトップにいたことも、僕に似ていると思わないか?士官学校時代を思い出すよ」
「卒業後すぐに私の後塵を拝すあたりも似ているな(ボソ)」
「シャア、こんな楽しいイベントに誘ってくれて…ありがとう!そして、ありがとう!」
再びスカイハイになり切ると、ガルマ・ザビは喜々として駆けていく。父や兄姉達に見せるらしい。
「シャア、いいのか?止めなくて」
「構わんよ。坊やだからさ」
「プルプルプルプル〜!」
エルピー・プルだ。ドラゴンキッドのコスプレ姿である。
これにはジュドーも納得だ。
「ああ、プル。似合ってるよ」
「ホント?やったぁ」
ピョンピョンと跳ねてから、カンフーらしいポーズを決めた。
「ジュドー!遊ぼう!」
「ん〜?もう遊んでるもんじゃないか」
コスプレ自体、立派なお遊びだ。
そう指摘したのだが、プルが聞くはずもない。
「遊ぼ!遊ぼ!パフェ食べよ!」
「パフェなら、いつでも食べら…ひやぁ!」
尻を出られたのである。
ジュドーは青い顔で飛び上がった。
「何すんだ…って、ええぇ!?」
振り向いて硬直する。
見ているもの、目の前にいるものが信じられない。
「……は、ハマーン?」
「いかにも。ハマーン・カーンだ」
「マジで?」
「ふ」
女帝らしい優雅さと鋭さの籠もった流し目を送る。
「赤い髪のセレブリティ。その上、ファイヤーエンブレムとやらは一国一城の主というではないか。まさに私だろう」
「一国一城って…まあ、社長さんだけど」
「それと、ロックバイソンとはこういう間柄なのだろう?」
「ひゃあぁ!やめろ!尻を撫でるな!」
「仲良くやろうではないか、ジュドー・アーシタ。いや、ロックバイソン」
「ひいぃぃぃ」
「これでは人に品性を求めるなど絶望的だ」
ルナティックが冷ややかに嘲笑う。
仮面で顔を隠しても、滲み出る傲慢さが誰だか告げた。
「パプテマス・シロッコか…俗物め!」
「女狐が。よく言う!」
「このファイヤーエンブレムを見くびってもらっては困る!」
「そんなネクストで、このルナティックと対等に戦えると思っているのか!」
対峙するシロッコとハマーンの姿は、まさにヒーローの対極。子供が見てはダメ!な世界だ。
アムロでさえ言葉を失っていると、傍らで轟音が轟いた。
見れば、煙を上げる壁の前でプルが突っ立っている。
「プル!大丈夫か!?」
「あはは、ジュドー!あたし、電撃使えたよ!」
「はあ!?」
「ほら!」
振り回した棍棒に合わせて雷が迸る。
「マジで?まさかコスチュームだけでなく、能力も…?」
ジュドーとアムロが揃って自らの手の平を見つめたとき、大きなトレーラーが横付けされた。
「おお、カミーユ!いや、ブルーローズか!」
シャアの浮かれた声を聞き、ジュドーもパッと笑顔になる。このコスプレ大会に入れ込んだ一番に理由が、これなのだ。
「やったぁ!カミーユさんのブルーローズだ!」
シャアとジュドーがやんややんやとトレーラーを歓迎する背後で、アムロが悲痛な声を上げた。
「おい、待て!能力まであるとしたら、カミーユは…」
アムロの不安をよそに、トレーラーの側面が開いていく。
「カミーユは危険だ!」
☆☆☆
一方のヒーロー達。
「んっもう!どうしてこんな服着なくちゃなんないのよ!」
ブルーローズことカリーナ・ライルは、ガンダムワールドのコスチュームにおかんむりだった。
というのも、彼女に与えられたのはカミーユ・ビダンの衣装、つまりは男子用のエゥーゴ軍服だからだ。
「トレーニング用のジャージより地味じゃない!」
「仕方ありませんよ、軍人さんなんだから」
イワン・カレリンが弱々しく口を挟む。
彼もまた黒を基調としたエゥーゴの軍服姿だ。
「わかってるわよ!私が言いたいのは、どうして向こうの衣装を着なきゃならないかってことなの!」
「まあ、それは何だな…あっちが俺達のコスチュームを着たいっちゅーから、交換だ、交換」
ポリポリと無精髭を掻きながら、カリーナを虎徹が宥める。鮮やかなブルーの軍服がひどく似合っていなかった。
「うわ、キモ」
「ぐっ」
「白いタイツとか、最悪」
「そんなこと言うなよ!こりゃぁガンダム界の大ヒーロー、アムロ・レイの衣装だぞ!」
「あっそ」
「あっそ、てなぁ〜」
「キャラによるんじゃないのか?」
ランキング下位同士のよしみか、アントニオ・ロペスが虎徹を援護する。
「俺の衣装はこれだぞ?軍人じゃないだろ」
赤いジャケットに黄色いシャツ。確かに軍人らしくない。
「ボクだって、こんなのヤだよ」
エルピー・プルの衣装はハードルが高いらしい。
スカートの裾を引っ張りながら、パオリンが嘆いた。
「カリーナみたいな服の方がいい」
「あらぁ、似合ってるわよぉ?」
ネイサン・シーモアはシックな黒のコスチュームに上機嫌だ。いつも以上にシナを作り、身体をくねらせる。
「可愛いわよぉ」
「か、可愛くなんかないよ!こんな服はイヤだ!」
「そうだ、このコスチュームはおかしい」
天然らしい明後日方向の解釈をして、ジオンの軍服を着たキースが胸を張った。
「彼らはロボットに乗って戦うのだから、僕らはロボットを模したコスチュームを着るべきだ」
「あ、それはダメです。僕の衣装着てる人、戦艦乗りだから」
「そうだ」
イワンを押し退けるようにして、凍えた声が割り込む。
その声の主を確認して、誰もが目を剥いた。
代表として虎徹が引きつりつつ指を差す。
「え?あんたもコスプレしてんのかよ?」
ユーリ・ぺトロフは返事代わりに片眉を上げた。
沈黙が降りる。
別に意外なメンバーの登場に驚いたからではない。
ユーリの頭部に注目したからだ。
心なしか、ユーリのこめかみがヒクつく。
「…何かな?」
「いやぁ、そんな髪型するよりロボットになった方がマシなんじゃないかと」
「ロボットじゃなくて、モビルスーツです」
ぴしゃりと指摘するのは、バーナビー・ブルックス・ジュニア。
好意的な発言だが、彼はすぐに「帰りたい」とも付け足した。
故に、虎徹がより派手に無精髭を掻き、気難しい相棒へ振り返る。
「おい、バニー!お前がロボットロボットうるさいから…」
「あぁ、帰りたい」
さすがベテラン。「でしょうね」という言葉は呑み込んだ。
「…何ですか?」
「い、いや、その…」
バーナビーのコスチュームは、ヒーローとはまた別の方向にド派手。
ガンダムワールドから飛び出すと、胡散臭さがハンパない。
「あ、赤い彗星だもんな…はは」
「帰りたい」
「ひ、ヒーローらしくて似合ってるぜ、バニー」
「ヒーロー?」
顔の殆どを覆ったマスクの下から、バーナビーが鋭い視線を虎徹へ向けた。
「シャア・アズナブルはヒーローじゃありません!悪役です!」
☆☆☆
再びガンダム・ヒーローズ。
せっかくのステージだというのに、ブルーローズに扮したカミーユ・ビダンは膝を抱え、露出の高いコスチュームを無意味にしていた。
「ちょっと、カミーユさん!セリフ、セリフ!」
「そうだ、カミーユ!いや、ブルーローズ!君には言うべきことがあるだろう!」
かぶりつきでジュドーとシャアが騒ぎ、やっとカミーユは少しだけ顔を上げた。青く塗った唇がワナワナと震え出す。
「……の氷は…ちょ…ぴりコール…」
「え〜?聞こえな〜い!カミーユさん、もっと大きな声で!あと、ポーズも!」
「カミーユ、戦士として義務を果たせ!」
「待て、シャア!ジュドーも、カミーユを追い詰めるな!」
「…たの悪事…完全…」
カミーユが両手を挙げる。立ち上がるのかと思いきや、フリージング・リキッド・ガンを思い切り構えた。
「ホールドしてやるぅ!」
絶叫とともに氷の柱が迸る。
「うわああああっ」
カミーユのコスプレを楽しむ暇などない。
シャアもジュドーも、そしてアムロも蜘蛛の子を散らすように逃げていく。
それとすれ違うようにして、二人の炎使いが立ち上がった。
「生の感情を出す様では俗人を動かすことはできても、我々には通じんな!」
「口の利き方に気を付けてもらおう!」
「ここからいなくなれぇ!」
氷と2色の炎がぶつかり合う。
これに「わーい」と陽気にプルが参戦した。
ガルマも風を伴って飛び込んでいく。
「ああっ、カミーユさん!」
大好きなカミーユのピンチとなれば、ジュドーの能力は自然と発動する。
角を突き出し、突進した。
これにシャアも続こうとして、しかしアムロに止められてしまう。
「ええい!放せ、アムロ!」
「落ち着け、俺達の能力は5分しか保たないんだぞ!」
「カミーユを見捨てろというのか!?」
「違う!タイミングを計れと言っているんだ!」
「当たらなければどうということはない!」
無謀にもシャアは能力を発動させた。
こうなると、アムロも倣うしかない。
「シャア!同じ過ちを繰り返すのか…くそっ!」
もはや収拾のつきようがない。
☆☆☆
またまたのヒーロー達。
シャアはヒーローじゃない!宣言から始まって、バーナビーの怒りは勢いを増す一方だ。
「だいたい、僕はロボット工学を語り合いたいのであって、コスプレになんて、これっぽっちも興味がないんです!」
「いや、向こうがコスプレしたいってんで…」
「単に会えば済むことでしょう?どうしてコスチュームの交換になるんです?どうしてコスチュームの交換が異世界交流になるんですか!?説明して下さい!」
「バニー、落ち着けって」
「落ち着いていられますか!」
ずいずいと虎徹に詰め寄っていたバーナビーの動きが止まる。
バーナビーだけでなく、皆がじっと耳を澄ました。
「爆発音、したよな?」
「はい、確かに」
「あ、今もしたよ!ボク聞こえた!」
「ねぇ、もしかして」
ネイサンがピンクに塗りたくった唇に指を当てる。
「コスチュームだけでなく、能力も移ったりしてない?アタシ、火が出ないのよ」
「本当だ。風が起こせない」
ここでさっきより大きな轟音が轟き、振動が伝わった。
「こりゃあ、慣れない力でトラブってるな。よし、助けるぞ!」
「待ってよ。あたし達は能力を失って普通の人間になっちゃってるのよ?どうやって助けるの?」
「そうですよ。今の僕らはヒーローとは言えません。助けようがないですよ」
「けどよぉ」
「おい、虎徹。向こうはロボット乗りなんだろ?」
肩を掴んでくるアントニオへ、虎徹だけでなくカリーナもネイサンもパオリンさえ首を傾げた。
「そうだけど…それがどうした?」
「あっちに俺達の能力が移ったのなら、俺達にもあっちの能力があるんじゃないのか?」
「そぉか!その手が…」
「その手があったか!」
パートナーの言葉を横取りし、シャアコスプレのバーナビーが拳を上げた。
「僕はぜひともサザビーに乗りたい!」
「さ…ざび?お前は”ばーなびー”だろ?」
「いや、百式にしよう。百式ならブライト艦長の指示を仰ぐことができる!でも、僕のカラーは赤だから…よし、決めた!リック・ディアスだ!」
「バニー、お前、さっきから何を…?」
「モビルスーツの話ですよ!虎徹さん、あなたはディジェに乗ったらいい。あなたのカラーだ」
「へ?DJ?」
「無駄だ。モビルスーツに乗って何ができるというのだ」
「ユーリさん」
バーナビーが声と視線に冷徹さを含ませて、シロッココスプレのユーリ・ぺトロフを睨んだ。
目に見えない火花が散る。
「シロッコの搭乗機はダルマだけじゃないですよ。メッサーラもあります」
「メッサーラか。タナトスの声にふさわしい」
「おい、バニー!どうしちまったんだよ!俺には何がなんだかサッパリ…」
「行きますよ、虎徹さん!」
「ええぇ?おい、バニー!?待てよ、引っ張るなって!」
俄然張り切り出したバーナビーと、それに釣られる虎徹。
さらにユーリや他のヒーロー達も続いて、どうなるやら。
異世界交流ならぬ、異世界バトルの結末や…いかに!?